大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)1176号 判決 1983年9月30日
原告
余田悦子
被告
林豊
主文
被告は原告に対し、金三〇七万二、一〇〇円およびうち金二八二万二、一〇〇円に対する昭和五八年三月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その三を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。
この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告は原告に対し、金一、〇二三万八、一三〇円およびうち金九二三万八、一三〇円に対する昭和五八年三月二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和五六年四月七日午前四時五五分頃
2 場所 大阪市都島区友渕町一丁目府道高速大阪守口線守下三二二ポスト先道路上
3 加害車 普通乗用自動車(群五五て一八五四・以下加害車という)
右運転者 被告
4 被害者 加害車に同乗中の原告
5 態様 被告運転の加害車が南西から北東に向け時速約六五キロメートルで走行中、運転操作を誤り暴走して左側壁に衝突し、次に右転把したため右側壁に激突し、同乗中の原告に傷害を負わせた。
二 責任原因
1 運行供用者責任(自賠法三条)
被告は、加害車を所有し、自己のために運行の用に供していた。
2 一般不法行為責任(民法七〇九条)
事故現場附近の道路状況をみると、右方へ大きくわん曲していたのであるから、自動車運転者としては、あらかじめ速度を調節して前方左右を注視し道路状態を確認して的確にハンドル操作をすべき注意義務があるのに、これを怠り、後方から進行してきた大型貨物自動車に進路を譲り左に進路変更しようと後方をみたため前方注視を欠き、道路が右方にカーブしていることに気づかず、前記速度のまま急転把した過失により、右側壁に激突し、原告に後記の損害を与えた。
三 損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
前頭部打撲挫創、右肘擦過傷、右膝打撲傷。
(二) 治療経過
通院協愛病院
昭和五六年四月七日から同年六月三〇日まで(実日数一三日間)
(三) 後遺症
原告は本件事故による後遺症として、頭痛、めまい、肩こり、右膝部に圧痛などがあるほか、顔面に醜状痕を残して昭和五六年六月三〇日ごろ症状固定した。
2 治療費 一三万五、五四〇円
3 逸失利益
(一) 休業損害 六〇万四、七五五円
原告は事故当時二二歳で、被告経営のスナツク「ナイト・ラウンジ・はやし」のホステスとして勤務していたが、本件事故により、昭和五六年四月八日から同年六月三〇日まで休業を余儀なくされ、その間六〇万四、七五五円の収入を失つた。
内訳
四月分 二五万七、三五五円
五月分 一九万七、四〇〇円
六月分 一五万円
(二) 将来の逸失利益
原告は前記後遺障害のため、その労働能力を五六%喪失したものであるところ、ホステスとしての原告の就労可能年数は昭和五六年七月一日から八年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、八八四万三、五二〇円となる。
計算式
20万円(事故前1カ月の平均収入)×12×0.56(労働能力喪失率)×6.58(8年のホフマン係数)=884万3.520円
4 慰藉料 八五六万円
内訳
通院慰藉料 二〇万円
後遺障害慰藉料 八三六万円
5 弁護士費用 一〇〇万円
四 損害の填補
原告は次のとおり支払を受けた。
1 自賠責保険金から後遺障害分として八三六万円。
2 被告から休業損害分として六〇万四、七五五円。
治療費分として一三万円。
五 本訴請求
よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。
第三請求原因に対する被告の答弁
一及び二の各事実は、いずれも認める。
三の事実中、1の(一)、(二)の事実及び1の(三)のうち後遺症として顔面に醜状痕を残している事実は認めるが、その余の事実は不知。
四は認める。
第四被告の主張
被告は、スナツク「ナイト・ラウンジ・はやし」の経営者であり、営業終了後従業員を伴なつて食事に行き、被告運転の加害車に原告ら四名を同乗させ、帰途寝屋川市に住む原告宅に好意から送り届けるため高速道路を走行中に本件事故を発生させたものであるから、好意同乗者として原告の慰謝料のうち二〇%を減額するべきである。
第五被告の主張に対する原告の答弁
被告主張事実は認める。
第六証拠
記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
第一事故の発生
請求原因一の事実は、当事者間に争いがない。
第二責任原因
一 運行供用者責任及び不法行為責任
請求原因二の1及び2の事実は、いずれも当事者間に争いがない。従つて、被告は自賠法三条、民法七〇九条により、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
第三損害
1 受傷、治療経過等
請求原因三1(一)(二)の事実は当事者間に争いなく、かつ後遺症として顔面に醜状痕を残して症状が固定(昭和五六年六月三〇日頃固定)したことも当事者間に争いがない。(なお、右症状固定時期については成立に争いのない甲第四号証により、これを認める。)しかしながら、原告主張の後遺障害のうち、頭痛、めまい、肩こり、右膝部の圧痛などの症状については、全証拠によるも、これを認めることができない。
2 治療関係費
(一) 治療費 一三万五、五四〇円
成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、原告は本件事故により受傷した治療のため、治療費として、水野外科病院に六万一、八六〇円、協愛病院に七万三、六八〇円を要したことが認められる。
3 逸失利益
(一) 休業損害
成立に争いのない甲第五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、原告は事故当時二二歳で、被告の経営するスナツク「ナイト・ラウンジ・はやし」にホステスとして勤務し、一か月平均二五万円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五六年四月七日から同年六月三〇日まで休業を余儀なくされ、その間合計六〇万四、七五五円の収入を失つた(但し、同店の給与支払明細をみると、前月二一日から当月の二〇日までの給与を当月分の給与として支給しているのに、自賠責調査事務所においては昭和五六年四月分より実質賃金を差引きながら、同年六月分には同月二一日より同月三〇日までの給与を加算していない。ところで、原、被告は事故後、話し合いによつて、休業損害として右金額を合意し、すでに支払い済みであることをも考慮すれば、右金額を休業損害とするのが相当)ことが認められる。
(二) 将来の逸失利益
(1) 成立に争いのない甲第四号証、前記甲第七号証および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和五六年七月一日から少くとも三年間はその労働能力を四〇%喪失し、その後五年間はその労働能力を二五%喪失するものと認められるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、四九三万六、五六〇円となる。なお、前記認定のとおり原告は事故前一か月平均二五万円の収入を得ていたものの、ホステスとしての経費(一か月五万円とするのが相当)を差引いた金額である二〇万円を一か月の収入とした。
計算式
20万円(事故前1年間の収入)×12×(0.4×2.731+0.25×{6,589-2,731)}=493万6.560円
(2) ところで、被告は、顔面の醜状痕は労働能力に影響を与えず、従つて、右後遺障害を将来の逸失利益に斟酌すべきでなく、慰藉料額算定の一事由として考慮すべきである旨主張する。
しかしながら、原告は事故当時被告の経営するスナツク「ナイト・ラウンジ・はやし」のホステスとして勤務していたことは当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果によるも、同店に勤務しはじめた昭和五六年三月一二日以前においても、原告はホステスとして稼働していたことが認められ、右の如き原告の職歴及びホステスという職種の特殊性を考慮すれば、後遺障害として残された顔面の醜状痕は、これを労働能力の喪失として、将来の逸失利益の算定にあたり考慮するのが相当である。
(3) 次に、本件において原告の顔面に残された醜状痕の後遺障害を労働能力の喪失として考慮するとしても、その喪失率の程度が問題となる。
前記甲第四、第七号証によれば、原告は、本件事故により前額部打撲挫創などの傷害を受け、協愛病院において縫合手術を受けざるを得なくなつたことから、前額部には、ピンク色の線状かつ弧状の瘢痕が残り、昭和五六年一〇月三一日同病院での検尺では約四・五センチメートル、同年一二月八日自動車保険料算定会大阪調査事務所での検尺では長さ五・五センチメートル、幅〇・二センチメートルにわたつて、一見人目を惹く醜状痕が残されていたこと、そこで加害車自賠責保険を取扱つた住友海上火災保険(株)では、右調査事務所の調査結果に基づき、原告の右後遺障害を自動車損害賠償保障法施行令別表第七級一二号に該当するものとして、原告に対し八三六万円を支払つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、症状固定後の労働能力の喪失率を考慮するにあたつては、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号をそのまま適用することなく、受傷及び後遺障害の部位、程度、治療経過、受傷者の職業、職歴、収入、年齢などの諸事情を総合し、適切妥当な喪失率を認定すべきところ、本件においては、前記の如き受傷及び後遺障害の部位、程度、治療経過、原告の職業、職歴、収入、年齢などの諸事情を考慮すれば、前記の如く、症状固定後三年間はその労働能力を四〇%、その後五年間はその労働能力を二五%喪失するものとするのが相当である。
4 慰藉料
本件事故の態様、原告の傷害部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、原告の年齢、その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は七八〇万円とするのが相当であると認められる。
しかしながら、いわゆる好意同乗の場合においては、慰藉料を算定するにあたつてこれを考慮すべきところ、被告はスナツク「ナイト・ラウンジ・はやし」の経営者であり、営業終了後原告ら従業員を伴つて食事に行き、被告運転の加害車に原告ら四名を同乗させ、帰途寝屋川市に住む原告宅に好意から送り届けるべく高速道路を走行中の本件事故が発生したことは当事者間に争いがなく、そうすると、原告の慰藉料のうち二割を減額するのが相当であるから、原告から被告へ請求しうる慰藉料額は右七八〇万円のうち二割を控除した六二四万円となる。
第四損害の填補
請求原因四の事実は、当事者間に争いがない。
よつて原告の前記損害額(合計金一、一九一万六、八五五円)から右填補分九〇九万四、七五五円を差引くと、残損害額は二八二万二、一〇〇円となる。
第五弁護士費用
本件事案に内容、審理経過、認容額等に照すと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は二五万円とするのが相当であると認められる。
第六結論
よつて被告は原告に対し、三〇七万二、一〇〇円、およびうち弁護士費用を除く二八二万二、一〇〇円に対する本件不法行為の後である昭和五八年三月二日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井良和)